東京商工会議所杉並支部会長として 9年間を顧みる

松葉編集長松葉編集長

武蔵商事の宇宇田川紀通氏が9年間会長を勤めて地域活性化に貢献した組織は東京商工会議所杉並支部です。

武蔵商事株式会社 代表取締役社長 宇田川紀通氏
武蔵商事㈱創立60周年

——武蔵商事㈱が創立60周年を迎えましたが、会社というより宇田川さんは、荻窪と長く深いかかわりをお持ちですね。
宇田川 当社は、父・庄右衛門から続いて今年で創業60周年を迎えました。うちは父祖の時代から荻窪駅を中心とした周辺の土地を持っていまして、今の中央線の甲武鉄道ができる時には土地を提供して鉄道の誘致を推進しました。初めの計画では甲州街道を予定していたようですが、街道筋の反対で変更したルートが自宅近くだったということです。明治24年の荻窪駅開業当時は駅改札口は南口だけで、その後、昭和3年に北口ができ、昭和35年になってようやく西口が開設されました。
荻窪はもともとは農村でした。江戸時代には野菜や薪を青梅街道を使って市中に売りに行く暮らしで、駅ができたとはいえ周辺は何もない田舎です。終戦後の農地解放では、うちは8割の土地を失い駅周辺しか土地が残っていませんでした。地主だけでは暮らし向きがダメで土地利用を考えていたところ、映画ブームが起き、映画会社がうちの今の駅西口前の土地を借りに来ました。ならば、自分で映画館をと「荻窪東宝」「荻窪パルナス」を始めたのが武蔵商事です。レンガ敷きに噴水のある前庭付きの建物でおしゃれでした。父としては、資産はあるが現金収入がないため、この会社の映画館の入場料で現金収入を得ることが目的だったのです。
——そのためには、駅に西口を開設する必要がありますね。
宇田川 それには先ず、西口に跨線橋をつくろうということで、協議会を結成し国鉄に働きかけました。
——荻窪駅西側南北跨線橋設置協議会ですね。ちょうど複々線の計画が進んでいた時ですね。
宇田川 そのためか国鉄の返事がなかなか来ない。理由を聞くと跨線橋は渡せるけれど降ろす用地がないというのです。そこで、南側を横田地さん、北を宇田川が用地提供し西口を開設することができました。
——西口の開設で、白山通りに活気が出たでしょう。
宇田川 ところが映画業界の景気が下降線をたどり始め、当社としてもこのままではと、これを潮時に映画館を取り壊し武蔵ビルを建てて活性化を図りました。自社ではレストランをはじめ、テナントとして西友ストアーを入れました。後に、うちの土地で営業していた新興マ—ケットと共に再開発したのがタウンセブンです。この計画を進めるにあたって大きな問題がありました。マーケットの方は土地を持っていないため、銀行からの借入れができず、再開発ができません。そこで武蔵商事の土地の約3分の2の所有権を無償譲渡して、隣接の土地と合わせて計画を進め、今の建物ができました。
——この時ですね、ルミネがタウンセブンの再開発計画に沿って建築計画に参加したのは……。
宇田川 そうです。ルミネは同時に計画に参加しなければ建物ができなくなるというので、タウンセブンの増築扱いで完成させました。
——再開発といえば当時は、いくつか計画がありましたね。
宇田川 南口に土地(現グローリアビル)があり、父は豊栄マンションとともに南側の再開発を望んでいました。しかし計画に関係する地権者の反対で断念、タウンセブンへの計画へ切り替えたという流れでした。再開発といえば、荻窪には他に3つの計画がありました。どの計画も反対が避けられず実現しませんでしたが、大事なのは、使命感、情熱、想いだと思います。それがないと障害を乗り越えることができない。タウンセブンで目指したのは全国初の全員同意型で、一人でも反対があったら実現できなかったでしょう。いろいろな困難があったけれど、結局は「街づくりに寄せる想い」が強かったゆえの成功であり、夢や志があってこそできることです。

東京商工会議所杉並支部会長として活躍

——宇田川さんは、荻窪のいろいろな会の役をなさっていたけれど、すべて辞退して東京商工会議所に打ち込んでのご活躍でしたね。杉並支部会長としての活動を振り返ってみていかがですか。
宇田川 私の会長の任は、根本特殊化学㈱代表取締役会長の根本郁芳さんのすすめで、後継として3期9年間を務めました。はじめはお断りしていたのですが、最終的にお引き受けしました。その活動は、三つに分けられます。一つは、要望、政策の提言です。東商として、これまで国や都にもいろいろな要望や提言をしています。杉並支部としては、杉並区長や区議会に出してきました。また区との関係では、東商は、区長、議長、議員など特別職の報酬審議会や、その他の問題をどう考えるかなど、いろいろな問いかけが寄せられます。その点では、荻窪のインテグラルタワーで産業振興センターと同じフロアに事務局があるため、連絡が密にできました。
——区の関係の仕事も多いので、その点は良かったでしょう。
宇田川 区が何かやる際に判断を下すのは区長ですが、田中区長は都議会の議長をやって25年の政治家の経歴があります。政治家で重要なのは「選択すること」、何をとって何を捨てるかです。予算の範囲内で優先順位を決めて取捨選択することは仕事であり責任です。政治家の志で、ぶれのなさが求められます。待機児童の問題もそうです。二つ目は、区内中小零細企業の経営支援です。「マル経融資」は無担保、無保証人で最高2千万円の支援を低金利で行うものです。簿記の検定試験なども行っています。
——地域活性化にも意欲的に取り組まれたでしょう。
宇田川 三つ目が、地域の活性化です。これについては、杉並区に何か特徴はないかを考えました。「緑豊かな文化あふれる住宅地」というイメージが強く、工業、商業という産業は思い浮かばない。悩んだ結果、区内を七つに分ける地区制を考えました。荻窪、西荻窪、阿佐谷、高円寺、井草、和田堀、京王井の頭線の七ブロックです。そこで例えばイベントでは、音楽祭、ジャズ、阿波踊り、蛍祭りなど、それぞれの地域での活動で活性化を図れば区全体として盛り上がると考えました。また、東商の仕事はコーディネイトすることと考え、商店街とタイアップ、商店会連合会や法人会とも協働して社会貢献を図りました。福島県南相馬市への被災地の現状視察、ボランティアツアーなども開催。北海道風連商工会・名寄商工会議所と意見交換し、ふるさと納税に協力したり、明るい社会づくりの会では傾聴のボランティアなど。台湾との杉並区交流自治体中学親善野球大会もその一例です。
一方、分科会でも商業、工業、金融、建設、交通運輸、サービス・情報と、産業を6つに分け、ブロック制と縦糸横糸の関係にして多様な活動を進めるようにしました。ほかには、区の諮問で地域の経済団体はどう考えるかに答える、といった活動も行ってきました。
——これまでの活動で印象に残っているのは?
宇田川 アニメ産業についてです。杉並区の代表産業でしたが私の代に区の事業仕分けでストップがかかりました。業界はパテント、著作権、放映権等の権利を大手が握っている。杉並は中野、練馬同様、下請けの中小企業が多い。せめてもというのがアニメ塾で働き手の養成の助成でしたが、三、四百万円位を区がカットしました。
一方これからは観光に期待しています。関連各産業への影響も大きいからです。観光は客寄せの資源として、物語作りが必要だと思います。
——宇田川さんは、今度、会長職を次に譲るとお聞きしましたが?
宇田川 私は、10月で会長の任を次にバトンタッチします。正直言って、現役の社長と支部会長を同時に務めるのにはエネルギーが必要でした。週四、五回の打ち合わせ会議をこなさなければならなかったり。しかし、普段では会えないような人間的にも考え方も尊敬できる社長や経営者に出会えたことはよかった。人生の中で貴重な財産になりました。単なる荻窪の一企業の経営者の範囲を越え、杉並、東京、日本という大きな視点で社会を見ることができました。
後任にバトンタッチするには「自分が早期にやめるならこの人、長く続けてからならこの人」と決めることです。三、四年間かけて次の人を説得してきましたが、パブリックな面が強い問題なので大事なことと思います。やりたい人ではなくやって頂きたい人。それは後の人が更に東商を発展させてくれることを願う支部会長の責任です。

荻窪の将来を考える

——バトンタッチして荻窪の今後についてどう思っていらっしゃるか、ご意見などありましたら。
宇田川 まちづくりのことになりますが、以前、タウンセブンの計画が進んでいるとき、西武百貨店を入れたいという提案がありました。それについては渋谷と吉祥寺の商圏が重なるということで、また、高島屋の誘致については全館だったら借りるという条件なので話が消えました。
——荻窪の発展には、企業の誘致とその協力という課題があります。
宇田川 その時、西友の店長が言っていたのは、荻窪のお客様はインテリだが要望がきつく財布の紐が硬い。交通の便が良いから買い物は新宿、日本橋、銀座へ行ってしまう。商売がやりにくいというか逆現象を起こしますね。
——荻窪は荻窪に合う内容で勝負したいし、地域で荻窪を育てる心がほしいですね。
宇田川 東商がレジ袋削減のためのレジ袋有料化を進めたとき、区と協議会とで取り組みました。有料化実験の結果、スーパーでは不要派が70%、一方コンビニでは40%に止まり、それが限界だったので、自分のときに廃止しました。平成21年からは商店会連合会加入の61商店会1300店にレジ袋削減協力金箱を設置しています。
——荻窪の今後の展望についてお話しください。
宇田川 一番の問題は、ハード面です。種地がないことが問題です。開発して箱物を建てる余裕がない。例えば、荻窪で大きな会議やイベントなどを行うにしても場所がない。荻窪に場所が欲しいです。
——荻窪の発展の仕方には、住民の注文がでますね。
宇田川 そうです。住居地域の人は、そういう発展を望まない。思うに、商業地域と住居地域を分けて考える必要があります。南口の高級住宅地は新しく発展させる意味がないかもしれないが、北口は利便性を重視しつつ開発すべきでしょう。
——現在、杉並区は、荻窪のまちづくりを考えています。
宇田川 そうですね。それも荻窪駅中心の周辺を重点地区としています。荻窪まちづくり会議が地元の要望をまとめて区長に提出しましたが、それが9月には区の基本方針に取り入れられます。地元として、これから、その方針をどう受け止めて街づくりに取り組むかです。将来に期待するところです。
(平成28年7月)
写真・松葉 襄 撮影または所蔵


名   称 : 武蔵商事株式会社
本社所在地 : 東京都杉並区上荻1丁目16番14号 武蔵館ビル7階
電   話 : 03-5397-6341(代表)
代 表 者 : 代表取締役  宇田川 紀通
創   業 : 昭和31年7



次回は、公益社団法人荻窪法人会会長 東洋時計株式会社 代表取締役社長 小竹良夫氏