地図って面白い!どこまで地図は進化するのか!
世界一の地図表現企業を目指す

松葉編集長松葉編集長

地図好きの中学生棋士藤井聡太六段が師匠の杉本昌隆七段から15歳の誕生日にプレゼントされたのは地理力検査表ノート です。

東京カートグラフィック株式会社
代表取締役社長西山和 輔 氏
杉並で地図づくり一筋58年。「地図調製」分野で、多くの実績を残してきました。

3Dマップの進化と需要

——最近の地図って、ものすごい進化をしてますね。
西山 そうなんです。当社は地図屋ですので皆さんが見慣れたおなじみの地図も作っていますが、最近では、ドローンや航空機で撮影した画像を専用ソフトで編集して、建物などの構造物や地形・道路などの地図情報を3D(三次元)データとして作製、更にそれを使って3Dプリンターから立体地図模型を作りだすという取り組みも行っています。模型の活用事例としては、ここに旧国立競技場と周辺地域が真っ白に塗られた立体模型があります。この白い部分をスクリーンに見立て上から模型に映像を投影します。
——この状況をカメラで写真撮影しようとすると、部分的に色が紫に変わりましたね。
西山 普通の地図は鉄道や道路、各種情報は色付けや記号を使って分類するので表現は1つに固定されてしまいますが、この取り組みでは無地白色の地図模型に様々な画像映像を投影して表現していきます。動くコンテンツ(動画)などを投影することで様々な色分けや変化が加わった地図を表現することができます。
——新しい技術の新しい地図ですね。
西山 3Dプリンターの精度や能力で言えば高速道路の高架下部分とかも詳しく再現できます(空間が抜けている)。プロジェクションマッピング技術×3Dプリンター技術×地図情報処理技術=は、あらたな地図表現技術です。動くコンテンツ(動画)もどんどん投影して直感的理解が得られるように地図を表現していきます。
——平面の地図だと分かりにくいところを立体的に見て正確に分かるということですね。
西山 例えば、ダムを作るとします。住民の方にその必要性を説明しなければなりません。立体模型を使って色分けされた様々な情報を投影して平面ではわからないところを詳しく説明することができます。こうしたマップを当社ではご要望に応じてオーダーメイドで作っています。
——いきなり、3Dマップの話になりましたが、先日、杉並区で自動運転の公道上の走行実証実験があり取材しましたが、それも、まず3Dマップあっての事のようですね。
西山 地図屋としては地図データが大いに活用されとても嬉しいです。地理情報システムという技術があり、近年その利活用がすすみつつあります。地図上に様々な情報を重ね、そのデータを管理したり、重ねたデータから色々なことを読み解くGIS技術はこれまで専門家の領域でしたが、当社は10年ほど前から「地図太郎」というGISソフトを自社開発して、このGIS技術を一般の方々に気軽に使っていただこうと活動しています。
——一般の人にもですか?
西山 そうですね。一般の方にもかなり使いやすい操作性で価格も一般的なGISソフトは30万円程度するものもありますが、「地図太郎」は専門家しか使わないような高機能・高付加価値を取り入れないことで2万円程度とお求めやすくなっています。このソフトは、様々な行政機関でも使っていただいています。
——どんな使い方になりますか。
西山 画面を開くと白い状態のマップなんですが、ここに様々な情報を重ねることで、一般的な地図ではわからなかった、いろいろなことが見えてきます。例えば、インターネットで無償で使える消防データを呼込んで色分けするとか地形を陰影表現するなどです。
——これまでの地図の概念では理解できない(笑)。先の模型の話と一緒ですね。
西山 ある自治体の事例ですが、地図を見ると崖があり、その下に川が流れている、そんな地形の近くに集中して神社があるのがわかります。台地の上の境い目部分にです。平面の地図で簡単なものですと、何でこんなふうに神社が分布しているのかな?と思うのですが、地図に高さの情報を重ねることで、昔の人は水害の影響を受けにくい高台に神社を作っていた、というのが見えてくる、これがGISのひとつの使い方で、防災マップも作れるんです。
——情報処理ですね。
西山 喜ばれる便利機能として、スマートフォンで写真を撮影する際に位置情報を付与すれば、その画像を地図太郎に取り込む際、取得した位置情報をもとに地図上の正しい位置にその画像を配置し、情報を管理することができるんです
——???

昔の地形を知ることで、防災マップにも活用

西山 いま、ブラタモリとかが流行っていますが、例えば、昔は河川で今は河川でない場所が、GISの技術を使って標高ごとに色分けすると、昔ここに川が流れていましたよ、といったことが見えてきます。多摩川はよく氾濫していたんですが、そういう事もわかり、そうした防災関連にも応用できます。
——さまざまな使い方で、営業範囲が広がりますね。
西山 そうです。このソフトは、国や県、市区町村など様々な行政機関からも使いやすいと評価をいただいています。防災で例えれば、市が管理している消火器を地図上に落とし込んで視覚的に分かりやすくして、管理しているような自治会の地域防災マップにも使っていただいています。図面上で管理したものを電子化して役立ててもらうということですね。
——もう、ありとあらゆるところで使われるようになるんですね。
西山 そうです。地図を使うものでしたら、ありとあらゆる活用があります。杉並区とも取引しておりますが、地図はあらゆる場面で利活用ができますので、区のほとんどの部署に地図の提案をしております。特に災害時の備えとしての対策立案に地図は有効なツールになります。具体的な方向性を持って提案すれば、地図の利活用は多方面に受け入れられると思います。
——あちこちに売り込めますね。
西山 杉並区は、もう、うちの非常に大事なお客様です(笑)。沢山いろんな地図も作らせてもらっています。
——これからの地図づくりにはドローンを使ってとなりますね。
西山 われわれが参画している杉並の測量組合では区と災害協定を締結し、防災面でドローンの活用を検討しております。ドローンを使っての3D地図作りや、災害時の現地調査などドローンの利用シーンは益々広がっていきます。組合では地籍調査を受託してますが、地籍は災害復旧や街づくりにおいても重要な役割を担います。

航空写真や衛星画像を利用したAIと新たな関係づくりを模索

——杉並区の自動運転は、区の地籍データを使っての初の実証実験となりましたが、進んでいますね。
西山 われわれは地図屋ですけど、GPSで位置を特定(測量)するとか、航空写真、衛星画像、ドローンを使って地図を作るとか、IOT、AIとか、そんな話もどんどん出てきますけれど、自動運転ばかりでなく、こういう先端技術をいかに取り入れて仕事に生かしていくかという業界だったりします。あれこれ新しいことをやっていかないと、なかなか。
——環境作りも大切ですね。
西山 たとえば、写真を使った話ですとAIとどう絡めていくか。業界でよく使う衛星画像と航空写真があれば、AIの技術でいずれベース地図ができますよ。防災訓練でも普段は何も起きないけれど、訓練の時にこそ、災害本部を瞬時に立ち上げて、さっきお話ししたようなシステムを稼働させて、ドローンを飛ばしたり、情報を集約して指揮を取って判断をする、というような訓練をするところまで持って行かないと、さあ、いざというときに何もできないということになりますよね。
——そうですか。
西山 われわれは今、色々なことにトライしています。これまで地図を作る技術で商売をしてきましたが、これからはAIがやってしまうことになりつつあるんです。英オックスフォード大学でAIなどの研究を行うマイケル・A・オズボーン准教授の報告では、あと10年で「消える職業」「なくなる仕事」のリストに「測量技術者」「地図作製技術者」があります。AI技術を使って地図を作る研究にはものすごく費用がかかるので研究開発費を潤沢に持つ大手企業やIT企業が積極的に研究しています。じゃあ中小のわが社は何もできない、何もしない、ではなくて、今の我々にできることは何か?生かせる強みは何か?を考え、その範疇でトライしていかなくてはならないんです。まだまだ走りはじめですけど色々と環境を整えなくてはいけない。ちょっとずつね。いろんな調べ物をしたり、写真や画像をプログラミングで処理する、といったようなことから色々とやり始めています。
——様々な場面を想定しての取り組みですね。
西山 当社は設立1960年(昭和35年)で現在58期をむかえていますがその間、地図を作ってそれを売るのが商売でした。今は、地図はどんどん作られ無料で使われるようになってきましたね。
——そうですね。グーグルなど道案内などもそうですね。
西山 これまでの地図ビジネスの概念で商売はなりたたなくなります。ですが地図はなくなりません。むしろこれからもどんどん作られて無料で公開(オープン化)されていきます。地図やデータ構造を理解している当社の強みを、地図を必要とする様々な分野のサービスにどう結びつけられるのか?という発想に変えていかないと、われわれ地図を作ってきた会社は多分淘汰されると思っています。
西山 わずか30年で地図製作の手法も全く変わっちゃったんですからね。昔は手で墨製図していたんです。製図ペンを持って書いていたのが、今ではコンピューターできれいに書けるようになったんですから。
——そうでしょうね。
西山 航空写真をベースにしてコンピューター上で描き写していく、紙に書いていたのがコンピューターで加工編集するようになり、いずれはAIが写真を元に地図を描くでしょうね。
世界地図は国によって全く違う!?
——最近思うことは、地図ってほんとに多岐にわたっていますね。それに対して、今までの地図の概念で見て、それに当てはまらない地図に出会うととまどいと驚きですね。たかが地図などと言ってはいられません(笑)。例えば、日本から見ると逆さに見ている地図もありますね。
西山 そうです、世界地図では自分の国を地図の中心に描くのが一般的ですが、たとえばオーストラリアでは自国を中心に南北を逆転させた地図を作ったりもします。南北を逆転させた地図ではもちろん日本もさかさまになるわけですが、それを大陸側中国側から見ると、言われれば当たり前なんですけど、日本がいかに多くの海に囲まれた海洋資源国で、日本と中国の微妙な関係の理由も見えてくる(笑)っていうこともわかりますね。
——領土問題にからむ今に興味のある話ですね。
西山 一般的なメルカトル図法の世界地図ではロシアが大国に表現されます。またこの図法で日本の右(東)側を見るとアメリカ合衆国となりますが、日本からの方位線を入れることで東側は南米ということがわかります。これを理解しないで風水なんかすると大変なことになります。また面積を正しく表現する正積図法の世界地図ではアフリカ大陸が非常に大きなものになります。選ぶ情報や表現方法によって見え方が大きく異なります。

3D地図ができたことで、今までになかった発見が

——他には、どういう地図があるんですか?
西山 平面の地図では、国の基本図から五万分の一の地図、日本地図、世界地図や日常的には道路地図、また不動産地図、気象地図、桜前線地図など、地図の種類というのは本当にたくさんあります。今は、3D地図の分野に進化して、それが新しく社会に役立ってますね。これまで手で書いてきた地図ですが、それではできない地図です。地震の震源地図などはコンピューターを使うと比較的簡単に作れるんです。技術の発達で、今までできなかった表現とか、思いもつかなかった地図ができるようになったんです。
——それで確認や新しい発見が?
西山 そうです。過去30年間のマグニチュードが5以上の震源の分布データを東大地震研究所から貸与していただいて、当社の世界地図に重ねてみると、いかに日本が地震大国か、というのが見えてきます。またプレートとプレートがぶつかっているところで地震が起きているので、震源分布地図を見るとどういう形のプレートがあるのかが浮き彫りになってきますね。
——この赤い線がプレートですね。
西山 そうです。必要なデータ、面白い情報を重ねていけば、地図表現にはまだまだやれるところがありますね。昔に比べて情報が公開されるようになり入手しやすくなったから、今まで苦労しなきゃできなかったことが、これまで以上に表現できるようになって、皆さんにどんどん見せられるようになりました。
——今度の白根山の噴火のように休火山(今では使われていないことばです)だったところがまた噴火する可能性があるとか、南の日本の島が噴火して国土が広がるなんていう予測も。それは不謹慎なことかな(笑)。最近は、領土、領海の問題、それにつながる国際的問題がくすぶってますね。地図と大きな関わりをもちますね。

地図作りは、領土や地域の問題など、極めてデリケートな作業

西山 最近の若い人たちは、地図に対しての関心が少ないと言われていますが、もっと関心を持って欲しいですね。竹島とか尖閣とかの領土、あるいは漁場といった経済水域も関わってきますよね。ヨーロッパでも紛争が頻繁に起こってますが,地図を見てほしいですね。安全安心とか経済とか現実的におおいに関わることですから。そんなことで、地図、地理というものをもっと若い世代に発信していかなければいけないという動きが求められています。
——そうでしょうね。
西山 以前、地球儀の生産を中国に依頼した日本のメーカーがあって、中国政府から地図表記は中国の主張内容に変更しないと日本への輸出を認めないと迫られ、すでに日本での注文が殺到していたことから仕方なく中国政府の指示に従った会社があったんです。中国の主張とは、たとえば北方領土はロシア領に、尖閣諸島は中国名で表記され、台湾は台湾島にとか(笑)。中国の言いなりに地球儀をつくって、日本国内で販売したけれど、すぐに大きな問題となり、結局その会社は倒産しました。地図は非常にデリケートなものです。そこをわれわれは理解して作らなくてはいけないんです。外務省や国土交通省、政府や大使館など日本の立場を理解してね。だから単純にデータがあるからそれを使って地図を作る、簡単便利というのは実はとても危険なんです。国境問題とか領土問題を表現するのは極めて難しいですからね。
——そうでしょうね。一つには、歴史的事実の検証があるということでしょうね。意見の相違には、地図は説得力があるのではないか、新しく考えだされた事への対処、納得ですね。
西山 そういう流れの中で、文部科学省の学習指導要領が変わっていくわけです。数日前にも新聞に載ってましたけど、やはり地理だとか歴史だとかは新しい呼び名にして今までとは変わった内容にしていかなければいけないと。たまたま、われわれが扱っている領域も取り上げてもらってますけど。先ほど話ましたGISをどんどん活用していかないとね。公的なデータをダウンロードして誰でも無料で使える現在ですから。

いろいろな情報を集めていかに視覚化するか?

——地図の環境が変わりますね。
西山 地図データを重ねながら、最初は地域学習の授業でしょうけど、そういうところから徐々に応用ができるようになっていくと思います。2022年より高校の学習指導要領が改定されます。内容的には必修科目となる「地理総合」では地図を管理・加工するために地理情報システム(GIS)を使えるようにすることなど、随所に地理情報システムについての記載がなされています。当社の「地図太郎」なんかもうまく使ってもらおうって営業をかけているところです。
——時の流れに乗れますね。
西山 航空写真に写っているものは将来AIが自動的に地図の情報にしていくかもしれませんが、文化や形がないもの、写真に写らない情報は、われわれが扱って地図に結び付けていかないといけないと思います。  
——そうでしょうね。
西山 いろんな情報を集めて地図と一緒に視覚化する、そこはわれわれの得意とするところで、これからは、そこに言葉やストーリーを考えて「へえ〜」というふうに思わせるネタをいっぱい仕込んでね。ただ、だまって地図です、どうぞ、と言ってもダメですね。
——今までを、更に一歩進めて。
西山 そこで、どういう風に語るかで、語り部のセンスも問われます。いいもの作るんですが納品して終わりでは……ね。もっと付加価値が内在しているものなのにもったいない。それをどうお客様との会話の中で地図好きになっていただくか?というのが、われわれのもう一つやるべきことなのかな?と思います。

地図好きな人づくりのためにはストーリーが大切

——地図好きを増やすことですね。
西山 われわれは地図を作っていますが、ただ見てもらいたい、ではないんです。愛着を持ってもらうのは良い事だしとても嬉しいことですが、手にした地図から色々な問題意識を持ってもらう、感じてもらうことがとても大事だと思います。
——わかります。
西山 われわれが扱っている専門領域は地味だけど、「へえ〜」っというエンターテインメントになりうるんです。やっぱり小難しい学問なんだけど、これをどういうふうにストーリーを作って、エンドユーザーにお届けするかという領域をいま大事にしています。昔、小学校の授業で学校周辺を自分たちで街歩きして、模造紙に地図を描いて情報を書き入れたり写真もはったりして最後にみんなの前で班ごとに発表する時間がありました。地域学習の授業です。今、とある小学校や中学校では当社のGISソフト「地図太郎」を使ってもらっています。今やお年寄りにも子どもにもわれわれが作る地図との接点を作ることができますね。
——すごいことですね。
西山 ツイッターとか、フェイスブックもひとつの広告、広報ということで大いに活用しなければいけないと思うんです。
お笑い芸人で自称地理地図芸人の方がいるんです。お会いする機会があったので、当社の広報をやってもらうことで契約しました。いまはツイッターを主に、地図地理ネタを日々発信してもらっているんで見てください。
——地図、地理のおもしろさを知ってもらう方法の一つですね。
西山 そうです。
——街のガイドといえば、今ではカーナビは普及されていて、最近、編集部に来る人が、道順を聞くのではなく住所を聞いてグーグルで調べて来ますね。日常的に地図はスマホでの認識ですね。
西山 あれは、本当に万人が使うものですが、地図を作っている人はそれに比べて決して多くはないんですよ。そして大手IT企業の地図なんかは彼らが作っているわけではなくて、作っている会社を買収したり、作った会社のデータを使用するわけです。地図屋は、そうしたものや自動運転などにしても、見えないところのデータ作りをしています。点や線とかいうデータをどうやって見える化して発信していくかということも、当社の仕事です。
——自負もある事でしょうしね。
西山 当社の名前の「カートグラフィック」は「地図調製」と翻訳されますが、当社では地図を表現する、と大きくとらえています。その言葉を社名に背負っているのですから徹底的に地図表現にこだわる、良くも悪くも新しい地図表現の可能性を模索し、世に発信する、新しい技術もどんどん使う。とても太刀打ち出来ないような規模の大手さんが数社もありますが、そんな中でも、東京カートグラフィックの存在価値とか強み、大事にしているところ、アイデンティティーはそこにあるのかな?と思います。
——そうでしょうね。

伊能忠敬の地図が今も大切な資料

西山 地図といえば、皆さんは伊能忠敬さんの地図を思い出しませんか。200年前に、日本の近代地図をつくりましたね。われわれにとっては、これが大変な商材になっているんです。
——伊能忠敬の地図がですか?
西山 伊能忠敬さんは、もともとは商家の主だったけれど、家督を長男に譲って隠居し、地図づくりに取りかかっています。伊能忠敬さんは、大図・中図・小図という縮尺が違う3種類の地図を描きましたが、その一部が日本では発見されていなかったんです。それがアメリカの秘蔵図書館みたいなとこで見つかってね。
——すごいですね。
西山 当社では、それの画像を借りてきて、伊能さんの歩いたルートなどをデジタル化しました。伊能さんが当時つけていた測量日記の何月何日にどこに泊まったなどを国土地理院の今の最新地図に重ね合わせてセットすると、伊能さんが今のどの道路を通ったか、途中どこにお参りしたかまで全部わかるんです。そういうソフトもできました。河出書房新社と紀伊國屋書店とで発売しているのですが、そのデータを当社が提供したわけです。
——すごいことですね。
西山 日本が開国の時に、海外からの侵略を防ぐためには地形を把握して砲台をどこに置くとか、また灯台をどこにつけたらいいかということ、それには地図が必要だった。伊能さんがそう考えたからではなくて、幕府の考えと伊能さんの興味が一致したということです。
——幕府はお金も出したでしょうね。
西山 シーボルト事件といって、幕府は国外に地図を持ち出すことを禁じていたけれど、伊能さんの地図を持ち出されて行方不明となった事件があったんです。海外の欧米列強の国の手に渡って、日本ってこんなことができるのかって、日本の地図づくり力が見直されました。そして当時は日本を植民地化しようとしていた列強が、その地図から日本の知識や技術を知って、これはやめようと思いとどまったという話もありますね。
——伊能忠敬は、何歳になって地図づくりを始めたんですか。
西山 55歳のときに測量の旅で蝦夷地に出発しました。昔はもう老人ですが、大した人ですね。歴史上の重要人物の上位に入っているんですよ。
——われわれが知る以上に、すごい人なんですね。

「好きなことをやってもいい」と言われ三代目社長に就任

——西山社長は、そもそも地図が大好き、技術屋なのですか?
西山 私は三代目の社長となりますが、この会社には他業界を経験した後に中途で入社しました。間もなく社長業9年目を終えて10年目を迎えます。二代目に猪原(いのはら)という社長がおり、その前の西山満喜夫が創業社長で私の父ということになります。私は男兄弟三人の真ん中(二男)で、順当にいくと兄(長男)がこの会社を継ぐ流れでしたが家族会議を何度も重ねて私にその話(事業承継)が回ってきました。私もこの会社を継ぐことに大きな抵抗がありましたが「何でも好きなことをやっていいから!」と父に言われて(笑)、それまで勤めていた会社を辞めて移ってきました。いま49歳、会社に入って20年以上が経過しました。
——そうなると、社長はもともと地図が大好きではなかった、ということになりますね。この業界は、地図専門技術集団と思っていましたけれどね。
西山 当社には学生時代に地理を勉強してきた地図地理好きのスタッフが多いです。地図づくりには派手さがなく、それは本当に地道で大変な仕事です。そして測量士などの資格を持った技術者を中心に職人的に地図を作ることは大事だけれど、完成した地図を更にどう進化発展させていくか?を悩み考え形にしていく、またそれをどのように世間に発信していくか?もとても大切ですね。
——会社として社員構成は大切ですね。
西山 私は中途入社組。営業担当役員も中途入社組です。それでも地図の可能性にはすごい興味があって営業を中心にやってきました。学校や専門学校を卒業してすぐに当社に入ってくる人もいますが、中には前職がコックだったり、お笑い芸人だったり、様々な経歴の人がいます。それでも地図が好き、地図に興味がある、というのがみなの共通点ですね。専門の勉強をしてきた人は欠かせませんが、必要なのは、いかに地図に対する興味を失わず、継続して勉強し続けられるか?ですよね。もちろん、センスというのもありますけど…(笑)。
——大切なことですね。
西山 いまは当社の相談役で前社長の猪原は、今でも本当にいろんなところに出かけて行っては当社のやっていることを中心に地図の面白さを発信してくれたりしています。学校の先生でもないのに呼ばれては地図の特別授業などやっていますね……。若い力は、もちろん大事ですけど、そういった熟年の力も大事ですね。
——わかります。

これからは顧客のニーズに合わせた地図をどう提供していくか

西山 以前は受けた仕事を黙々と、それも担当範囲を一人で黙々と作っていく、そんな地図の仕事をしているだけで幸せ、という人がたくさんいました。会社もそれでよし、という時代で仕事が成立していました。今はそういう時代じゃない。大きなプロジェクトをたくさんの人数で協力してやらなくてはいけない。仲間やお客様としっかりコミュニケーションをとって仕事をすすめ、仕様を超えてお客様に刺さる提案をしていくことが、次の仕事にもつながります。その意味で、お客様との良い関係を作るとっかかりに営業感覚に地図地理が好きというのは重要なのかな?
——そうした中で、必要とともに、新たな発想・開発・調査がある?
西山 もう既に実用化して普及したカーナビは地図をもっと進化させたものですね。ETCってあるんですが、このサービスも進化して、それに合わせてカーナビも装置も変われば、中の情報も変わっていくんです。それから、最初にお話した3D地図なんかは最先端技術で、これから期待され暮らしを豊かにしていきますね。
——暮らしとは直接的でない地図もつくるんでしょう。
西山 当社で製作した変り種の地図に「月面図:THE MOON」があります。これはJAXA(宇宙航空研究開発機構)が2007年9月に打ち上げた月周回衛星「かぐや」が測量したデータを使って(JAXAと国立天文台から貸与していただいて)作りました。皆さんが普段見ている月の表側と見ることのできない裏側を紙面の左右に並べ、北半球と南半球も上下に一緒にセットするデザインでコンピューターグラフィックの技術で作りました。
——地図データをつくったり借りたりしながら地図は進化する…ですね。車は、もう3次元の地図ですが、あれも街が変わればデータも変わる。
西山 そうです。街の変化に伴って地図データも変えていかなければならない際限のない仕事となります。
——仕事が広がる…
西山 「みちびき」という衛星が去年4機まで打ち上がって、今までのGPS機能が高まることになりました。そうなると地図の正確性を更に上げていかなくてはいけない。これも情報が変わってくるので永遠な仕事で、対応しきれなくなる。
——考えてみると、そうしたことはあたり前の事なんですね(笑)。
西山 そうです。当社では毎年いろんなデザインや投影法で世界地図カレンダーを作ってきました。この活動はもう30年以上にもなります。最近では当社の地図表現力を紙だけにとどめるのはもったいないよねと、紙面内に二次元バーコードを配置してそれをスマートフォンで読み取って地図アプリをダウンロードしてもらう仕掛けをとっています。昨年のスマホカレンダーアプリは「tear off atlas」(日本語訳:日めくり地図帳)というものを作りました。地図アプリを毎日立ち上げると、そのたびにひとつ世界の都市がリストに追加され面白い都市の解説がつくんです。当社ならではの表現です。2018年の世界地図カレンダーは2016年のグットデザイン賞大賞を受賞した「AuthaGraph」という投影法を使用させてもらいました。

あの藤井聡太くんも地図好き!

——地図の研究開発は本業で、サイドワークと言えるか、いろいろなグッズやアプリを出していらっしゃる。
西山 そう、出していますよ。最近作ったものにアイフォンの万歩計アプリ「step to the moon」があります。アイフォンに内臓された歩数計機能は持ち主の歩数をカウントしています。その機能を使ってこれまでにあなたが歩いた距離は、地球一周の距離にたとえて今は何%ですよ、とか、あなたは今東京を起点に世界地図上ではどの辺まで歩きました、とかね。これはスタート地点を他の国や都市に自由に変えことができるんです。もちろんタイトルのとおり月まで何%歩いた?とかね。
——発想がおもしろいですね。ほかにはなにか……?
西山 地図屋ですから、あくまでも素材は地図になりますし、正確さや情報鮮度にもこだわってやっています。またクリアファイルやノート、鉄道路線図にしてもシリーズで出しています。子どもさんが興味をもてるもの、わくわくするか、というのも大事ですね。封筒や便箋などもあります。緯線や経線を使ったメモ帳や便箋など、あれこれ工夫してます。路線図のハンカチは外国人の方にも人気ですね。
——そういえば、話題の中学生棋士藤井聡太六段が師匠の 杉本昌隆七段から15歳の誕生日にプレゼントされたものが東京カート社製の地図グッズだったと聞きましたが?
西山 話題になったのは、機能としては普通のボールペン、普通のノートです。されど…、まずボールペンは世界中にコレクターも多いデンマークEskesen社製のフローティングボールペン。フロート面の背景は国立国会図書館蔵の伊能図、前面には江戸時代の測量風景をシルエットでデザインしました。ペンを傾けるとゆっくり伊能さんが歩き出す仕掛けです。ノートは「地理力検査表ノート」といって表紙面には各県それぞれのシルエットだけが書いてある。裏表紙にはヒントだけが書いてあって、このシルエットは何県か?と当てるものです。彼は地図好き、地理好きなんですよね。
——とにかく地図は進化して、私たちの暮らしを豊かにしてくれることは確かです。地図のもつ無限の可能性は、将来への期待と楽しみでいっぱいですね。         (平成30年2月)
  ※関連記事「世界地図カレンダー」41頁


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代 表 者 : 代表取締役  西山 和輔
創   業 : 昭和35年9月